日立電鉄線

2001年から2005年、会社の命令で水戸へ赴任していた折の話。
営業所の受け持ちエリアが茨城県全域、日々車を駆って東へ西へ走り回る日々の中で高萩へ向かう或日の事、何やら薄汚れた赤い電車が田んぼのを突っ切ってトコトコと走っているのが見えました。
それは2005年3月31日で運行を終了し廃止された日立電鉄線でした。
高萩でその日の用事を済ませたところで先程の電車がどうしても気になってしまい水戸への帰社途中に国道を少し横道に逸れ常陸太田方面へ向かいました。
道すがら狭いクランクの上を架道する頼りなさそうなプレートガーター橋に出くわしたので暫し安全な場所に車を止め電車が来るのを今か今かと待っておりました。 暫くすると遠くにカンカンカンと踏切警報音が聞こえ、程なくゴトリゴトリと電車の車輪がレールの継ぎ目を叩く音が聞こえてきたので叉手とカメラを構えて待ちましょう。

しかして、音はすれどもなかなか電車が見えきません。

漸くして見えてきたのはその昔に営団地下鉄銀座線を走っていた車両の台車を付け替えパンタグラフを載せ地上へ引っ張り出してきた中古改造車両です。

2000形・3000形 – 帝都高速度交通営団から購入した銀座線用2000形電車(1992年 – 2005年)。台車・機器は同じく営団3000系電車のものを使用。3000形は両運転台車。京王重機整備で改造。銀座線は第三軌条集電だったため、パンタグラフが乗せられた。

橋を渡る電車は加速するでもなく大変に遅い。
女学生が漕ぐ自転車のほうが余程早い位の速度でフラフラと石橋を叩くが如く渡っております。

高速連写機能など要りません、ゆっくり巻き上げて置きピンポイントへ慎重にリングを回してもまだ間に合います。
何しろノンビリと言うよりは一本の綱を恐る恐る慎重に慎重に渡って行くが如くです。
さて、この橋ですがRMLIBRARY 64 日立電鉄の75年:10頁によると大橋架道橋と称し全長195.8mもあるそうですが、写真でも見て取れるようにコンクリート製の立派な橋脚を施工する用地が確保されているのに何故架道橋としたのか、そのまま踏切とし道路と平面交差とすれば保守作業も費用も手軽に済みそうなものですが何がの都合が悪かったのか甚だ疑問が残ります。

さてさて仕事中にこんな所で何時迄もぼやぼやしては居られません。
国道6号線へ向けて来た道を戻ると程なく小さな郵便局を過ぎたところに「大橋駅入口」の看板が見えました。
早く会社に戻らなくてならないのは承知のことですが何故か右折合図を出しハンドルを右に切って駅とご対面です。
2面2線の上下交換可能な駅で先程の架道橋端部がすぐそこに見えています。
無人駅であることを良いことにちょっと構内へお邪魔しますと今までは路線バスの専売特許だと思い込んでいた整理券発券機があります。

どうやら鮎川から常北太田を結ぶ路線のようで2両編成の列車が走っているようです。

程なく常北太田方面から2両編成のワンマン電車が先程見学していた架道橋をこちらへ向かってノロノロと走ってきました。

プシュっと空気を吐き出しドアが開きましたが昼下がりの大橋駅には乗降客は居らずそのままドアを締め鮎川方面へトコトコ走り去っていきました。
大橋駅はホームのみで見たところでは駅舎も無く閑散とした様相を呈して折りましたが、踏切脇には立派な設えの農協の倉庫が有ったりと中々に良い雰囲気だったのですが今となっては周辺の写真を撮っていなかった事が無念の極みであり大変悔やまれます…

こうなると間もなく廃止が迫る日立電鉄への思いは日を追うごとに募るばかりです。
僅かな区間だけでも乗車したいという欲望に駆られ常陸太田に仕事の用事を見つけ、その日は先ずは全く関係ない久慈浜駅へ向かい車を駐車し電車で常北太田駅へ向かう事としました。
また、カメラを携えて廃止前の姿を少しは写真にも収めて置こうとKONICA現場監督HG28にポジフィルム「SINBI(SRP)」を詰め踊躍して改札を抜けました。
久慈浜駅は1面2線の交換可能駅でその他に車両区や保安所、変電設備が見て取れることから中核駅としての機能を有しているようです。

真新しく塗り直されたと思われる車両がアントに連結されているかと思えば「水木浜へ行こう」と威勢の良いラップとは裏腹に色あせた姿を晒す車両も有ります。
嘗てはエリート会社員や百貨店を目指す洒落者達を乗せて都心の地下を闊歩していたこの車両たちも、その面影は全く消え去り地方暮らしがスッカリ板についてきた様だな、等と感慨に咽びながらパチリとやっていると乗車するべき常北太田行がコトコト入線してきました。

お誂え向きに旧塗装を復刻した車両です。
ここで交換する為直ぐには出発しない事を事前に調べていたので車両の撮影をとカメラを構えパチリとやった後に間を置かずお世辞にも綺麗とは言えない鮎川行の2両編成が入線してきたので駅看板を入れてパチリとしたら背後からかしましい声が聞こえてきました。

振り向くと乗るべき常北太田行の車両から大勢の女学生達が降りて来ました。
廃止間際の侘しさを期待していたところ大変面食らってしまった次第ですがそんな悠長な感慨に浸っている暇は有りません、人波を掻き分け急いで乗車しないと次の電車まで暫く時間が空いてしまい用事に間に合わなくなってしまいます。

常陸太田での用事を済ませ常北太田駅で写真を撮ろうかと踊躍して駅に向かいましたがその時既に鮎川行の電車が出発を待っており帰り掛けの写真を一切撮ることが出来ず後ろ髪を引かれる思いで電車に乗り込みました。
やれやれと久慈浜駅に帰ると遊び疲れたのか将又単に眠かっただけなのかは知れませんが待合室に若者が寝ています、最後の最後になんとも呑気な空気に包まれホンノリと優しい日立電鉄との戯れた時間を終え帰路に着きました。

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